流氷が到達する世界南限の海域で、春先に流氷底部の植物性プランクトンが、巨大なプール(根室海峡)で爆発的に増殖。それを起点にした知床の生態系というのが、世界遺産登録の理由。というわけで、知床半島周辺の海域も世界遺産に登録の貴重な存在ですが、なんと、その海岸に漂着ゴミがやってくるのだとか。
知床岬には実は海ゴミがわんさかある!?

小島あずささんの基調報告。とくにマイクロプラスチックの環境汚染は深刻とのこと
一般社団法人JEAN/クリーンアップ全国事務局の小島あずさ代表によれば、
「海岸線にゴミが漂着しているのは知床に限ったことではありません。壱岐や隠岐など日本海に浮かぶ島、五島列島なども漂着ゴミが大きな問題となっいます。そして日本人が出したゴミもハワイやアメリカの海岸を汚しているわけで、われわれも世界的な規模で考えれば、加害者にもなっているんです」 とのこと。
知床の漂着ゴミの問題は、「車や重機などが入れない海岸線に漂着ゴミがあること」(NPO法人しれとこラ・ウシ湊健一理事長)。
とくに知床半島の先端部は、地元羅臼町、斜里町、環境省、海上保安庁、林野庁の申し合わせで、動力船での上陸が禁止されています。
環境省によれば「知床岬まで、歩いて行くのはOK」(事前に地元行政や、ルサフィールドセンターに相談を)とのことですが、道なき道を歩くことになり、熊も出没。さらにはロープの下がる断崖や、満潮だと歩けなくなる(泳いで渡る)場所もあってと、まさに探検の世界。 知床岬を徒歩で目指すなら往復3泊、野宿が必要となるわけで、現実的にはゴミを拾うことは不可能な状態。
動力船での立ち入り禁止は、貴重な生態系を守るという意味では当然の姿勢ですが、海岸の漂着ゴミを除去するには大きなネックに。
NPOしれとこラ・ウシの湊健一理事長によれば、 「NPOになる以前から、漁師などの有志をつのって毎年羅臼町と一緒に知床岬のクリーン作戦を展開してきました。波のない日でないと知床岬に船が付けられないし、ちょっとでも波が高いと、知床岬をかわすことができないので、クリーン作戦獅子日でも、断念して途中で戻ってくることも多いんです」

知床岬クリーン作戦に参加。知床岬の海岸部にはこんなにゴミが!
『知床岬海ごみフォーラム』で漂着ゴミ問題が討議された!
そんな知床岬ですが、「ゴミを拾い続けないと、確実に漂着ゴミは増加しています。しかも、環境に悪いプラスチック系のゴミの横の入江で鮭の稚魚が泳ぐなど、世界遺産としては危惧すべき状況であることは事実」 と、知床クリーン作戦に参加した一般社団法人JEAN/クリーンアップ全国事務局の小島あずさ代表も警鐘を鳴らします。
2016年5月に羅臼町公民館で『知床海ごみフォーラム』が開催され、一般社団法人JEAN/クリーンアップ全国事務局・小島あずさ代表や、公益学に詳しく、環境教育の専門家でもある小野丈一さん、時事通信編集委員の曽根洋一郎さん、京都の庭師である次期12代目・小川治兵衛さんをパネラーに、知床半島の漂着ゴミ問題が話し合われました。
実際に壇上に上がるパネラー、そして報道するメディアも、知床羅臼に滞在し、フォーラムの前後に、世界遺産海域でのシャチの観察、先住民族の文化を知るために郷土資料館見学、知床の山岳部分の視察、漁協との意見交換などを行ないました。

環境教育問題の専門家・小野丈一さん「知床の生態系を子々孫々まで残すという姿勢が大切。地元の子供達が知床岬まで歩くという行事には敬服します」

有名な庭師・小川治兵衛さん「お庭は人が手を加えることで成り立つのですが、知床の自然も、最小限、その保全に手を差し伸べる必要があるのでは」
地道にゴミを拾い続けることが世界遺産の継続につながる!
結論めいたものは出ませんでしたが、「地道に拾い続ける」ことしか目下の解決策がないこともよくわかりました。
「世界遺産知床というと、観光的な宣伝だけに目がいく感じですが、こうした負の部分にも関心を持ち、改善していかなければ、世界遺産であり続けることができなくなる可能性もあります」というのが、多くの参加者の共通する認識だったようです。
知床岬という憧れの地。 その聖域が、ゴミだらけでは、世界遺産とはいえません。
「羅臼町に暮らし、漁業を営む人だけでなく、多くの人がこの知床の漂着ゴミに関心を持っていただけたらと切に願っています」 とは、『知床海ゴミフォーラム』を主催したNPO法人しれとこラ・ウシの湊健一理事長の話。
知床の岬に、ハマナスの咲く頃、思い出しておくれ、漂着ゴミのことを・・・

もともと漁業者である湊屋稔羅臼町長。その海、環境保全に対する思いは熱い